- 2022.6.15
読み物
【それぞれが、そこそこに幸せ。】りんねしゃが先導する循環型社会とは
三重県にある日本最大の商業リゾート施設「VISON」の本草エリア、奥VISONの山上にぽつんと佇む『本草研究所RINNE』。
心地よい暮らしに寄り添う品を集めたお店には、和草茶のカフェも併設されています。このカフェでは、オーガニックやヴィーガンなどのメニューも提供していて、ハーブを使ったワークショップも開催されているんだとか。全国各地からこだわりの素材が揃う、知る人ぞ知るお店です。
<VISON公式webサイトより>
「資源をゴミにすることなく食べきりながらも、お客様に良いものを届けたい。生産者の生き方や考え方も含めて、共感できる商品を流通させたい」
そう話すのは、RINNEのオーナーであり、株式会社りんねしゃの副社長 大島幸枝さんです。りんねしゃと脇口は、流通パートナーと生産者として協力を始めたばかり。今回は、そんな大島さんから、お話を伺うことができました。
【共同購入を通して、関係を築くりんねしゃ。】
ーりんねしゃについて教えてください。
りんねしゃは、今年で創業45年になる会社です。店舗は愛知県津島市という、自然の多い田舎にあります。主に無添加食品や有機農畜産物、天然生活雑貨を製造販売していて、配送サービスや商品の発送もしていますよ。
ー共同購入という仕組みを採用されているんですか?
そうですね。うちの父が共同購入という仕組みを作った世代なんです。分かりやすく言うと生協さんのような。事前に注文を取って必要な数だけ発注し、お客様にお届けするという流れです。
ーなるほど。
要は、「50個しか売れないかもしれないし、200個売れるかもしれないけど、とりあえず300個用意しとこう!」みたいなことはしたくなくて。賞味期限切れで廃棄するなんてもったいないじゃないですか。そうではなくて、事前に購入の約束をしていただいて、必要な数だけを仕入れる。大量に仕入れない代わりに、同じ生産者からずっと買い続けて、生き方や考え方も含めて紹介できるような関係を築きながら、商品を流通させたいんです。
ー長く関係を築いているんですね。では、消費者であるりんねしゃのお客様に特徴はありますか?
体に良いとされるオーガニックや、自然食が好きなお客様がほとんどですね。無添加や国産の物を好む方も多いかな。あとは、自分が購入することで生産者の応援がしたい、日本の自給率を上げたい、といった意識が強いと思います。
ー今は、とにかく値段が安いものを求める方も多いですよね。
そうですね。とにかく安けりゃ良いって方も増えてるから、ニーズが二極化していると思います。だからこそ、うちのお客様の見る目は厳しくて、本当に社会のために役立っているのかしっかり見られていると感じます。
【脇口の質の高いマグロと、海を守りたいという想いに惹かれて。】
ーでは、今回脇口に興味を持った理由を教えてください。
実は、取引が始まる前から月に2〜3回、VISONに来るたびに脇口のマグロを買っていて、美味しいなぁと思いながら食べてたんですよ。筋の感じとか、肉質や匂いが他のマグロとは全然違っていて。そこで気になって調べてみたら、マグロに優しい延縄漁法だっていうし、「海やマグロ、日本の水産業を守っていきたい」っていうコンセプトにも共感できて、一緒にやってみたいと思いました。資源をゴミにすることなく食べきりながらも、お客様に良いものを届けたいという私の想いに合っているなと。
ー厳しい目を持ったお客様に、大島さんはどのように脇口のマグロを紹介したんですか?
まずは、脇口さんがどういうマグロの釣り方をしているか、底引き網で何でもかんでも獲っちゃえっていう漁法ではやってないんだよということを伝えました。環境に配慮しているという点ですね。あとは、那智勝浦から1回も冷凍せず、なるべく鮮度の良い状態でみなさんに届けるっていうこともお話しして。
ー無添加で体に良いということを知ってもらったんですね。
そうです。他にも、ブロックから柵への切り方の動画を撮って、お客様に見せました。「私でもできるかな?」って不安がっていた若い方にも、この動画があるから大丈夫だよって。今後は、マグロの料理教室もやってみたいと思っています。切ってそのままお刺身で食べるのはもちろんだけど、うちのお客様は食べ方を工夫できる人たちなんです。余ったらオイル漬けにして自分でツナを作ったりだとか。料理教室を通して、他にも食べ方を提案したいです。
ー大島さんの「良いもの」の基準は何でしょうか?
もちろん美味しいかどうかが大事だとは思いますが、資源は少なくなって…労働人口も減って…という社会状況の中で、単に美味しければいいとか、売れればいいとか、そういう気持ちはないですね。生産者の考え方やチャレンジしている姿に共感できるものが、私にとっての「良いもの」です。脇口さんは今までの水産業界の型にはまらず、いろいろとチャレンジし続けている感じが良いなと思いました。
【想いに共感していただける方だけに販売したい。りんねしゃは、お客様を選んでいる。】
ーりんねしゃも型にはまらない感じですよね。
そうかもしれないですね。ただ美味しいっていう自己満足だけではなくて、根っこの考え方が共感できるものを紹介したいんです。こういう話をして集まってくれるお客様って、良い方が多いんですよ。そういう意味では、私はお客様を選んでる。売れれば何でも良いんじゃなくて、想いに共感できないなら買ってもらわなくてもいいっていう軸も持っておきたいんです。チャレンジしている生産者さんを、買うことによってみんなで応援したいんですよね。
ーやっぱり、想いなんて関係ないと言う方もいますか?
100人いれば90人ぐらいは、そんなの関係ないって言いますね。その90人は、少しでも安いものや楽な方が見つかったら、すぐにそっちへ行っちゃいます。だけど他の10人は違う。想いに共感して残ってくれるし、簡単には流されません。たとえば、うちは毎年決まった農家さんから果物を仕入れているんですけど、正直に言うと美味しくない年もあるんです。だけど、死ぬほど美味しい年もあって。たまたまその年に買った人が、今年も美味しいはず!って買おうとすれば、去年美味しかったからといって今年も美味しいかは保証はできないと伝えます。でも、何年に1回かの死ぬほど美味しい果物のために、良くない年も農家さんには儲かってもらわなきゃ。そうでないと、農家さんも農薬を使わずに丁寧に作り続けられないから。美味しくないものはいらないっていう人は、美味しいものも経験できないからねって話しているんです。
ーお客様は納得してくれますか?
してくれますよ。お客様は、知らなくてわがまま言ってるだけってことも多いんです。現実をきちんと伝えれば、「じゃあ、美味しくないリンゴが届いたときは、ジャムにすればいいんだもんね!」と手を加えてくれる。一方的に自分が理想とする食べ物をよこせって言うんじゃなくて、そうじゃないものが届いたときにちょっと工夫するだけで、生産者が継続して利益を得られて、経済が回って、日本っていう国が守られると知ったら、ジャムにする手間ぐらいかけてくれるんですよ。
【消費者は知らないだけ。コミュニケーションの重要さ。】
ー生産者の苦労や想いを、ちゃんと知らせることが大切なんですね。
その通りです。伝える努力もせずに、消費者がわかってくれないって言ってるだけではだめ。何か不備があったらすぐに謝って値引きするとか、返品を受けるとかやってるから歪んでいくんです。そうではなくて、お話会を開いて生産者の想いや工夫を伝えたり、料理教室で調理の仕方を教えたり、そういう風にお客様の心を掴めるような工夫をしなくちゃ。そうやって、みんながハッピーでいられるようなことを広めていきたいんです。
ー今、食の世界では結構課題が多いですよね。
ですね。その一つの突破の仕方が、共同購入だと思っています。自然な生産物を買いたいということは、消費者が調理の工夫をしたり、美味しくない場合のリスクも引き受ける覚悟が必要だと思うので。一方で生産者には、だからといって甘えてどんなものでも出すっていう姿勢では、そのうち切られるからねって話しているんです。
ー消費者と生産者、どちらにも伝えることが必要で、それを言える人があまりいないんでしょうね。大島さんは、貴重な橋渡し的存在なんですね。
こんなんだから大きくはなれないけど、小さくもならない。みんな、消費者が望むから食品添加物を入れるとか賞味期限を短くするって言うけど、コミュニケーションを取れば良いだけなんです。賞味期限の3分の1ルールって知っていますか?賞味期限って、本来の期間の3分の1で設定されているんですよ。
ーもったいない!
ね。これを伝えると、「そんなのもったいない!」って消費者は普通に言いますから。消費期限が切れたからってすぐ廃棄することが、どんなにもったいないことかわかるでしょ?だから、たった1本、3日で飲み切る牛乳を、新しいものじゃなくて古いものから買っていけば、それだけでも世の中が変わるよって話をしています。スーパーで手前に並んでる古い牛乳から取って欲しいって。そうすると、「次からそうする!」ってみんな素直に言ってくれます。要は、知らないだけなんですよね。
ー確かに、無意識に奥の牛乳を取ってしまっていました。こういうことって、発信していかないとだめですね。
発信はすごく大事。メディアの力って大きいと思います。説教くさくならずに、面白おかしく発信する力を持ってる人いないかな?っていつも探してるんですよ。ちょっとでも上から目線だとみんな逃げちゃうから。だから、私はこういうお店をやってるし、素敵!かわいい!ってお店に来てくれる人を接客しながら、今みたいなエッセンスを少しずつ散りばめて話をしています。これを面白いと思ってくれる人がリピーターとして残ってくれるから、自然にそういうコミュニティになっていくんです。
【適正規模を守って、経済を循環させていく。】
ー大きくはないけど、深いコミュニティになっていくんですね。
そうですね。たとえば、うちの弟はグラス・フェッド(自然の環境で放牧され、牧草のみで飼育された牛のこと)のお肉を扱っているんですけど、これは元々、お肉屋をやりたいってことじゃなかったんです。北海道に一生懸命酪農をやってる家族がいて、すごく丁寧に牛を育てているのに、お乳が出なくなっちゃったらもう殺すしかなくて、ゴミとして処分しちゃうんですよ。それを、本当に忍びないって。今まで頑張ってミルクを出してくれたのに、その子たちを食べてあげることができないんです。
ー何とかして食べられないんですか?
そう思いますよね。私もその話を聞いて、もったいないから精肉して食べようって提案したけど、食用としてブクブクに太らせていない健康な牛なので、固すぎて食べられなかった。仕方ないけどさすがに食べられない…って悩んでいたときに、弟が熟成という技を見つけて、熟成すれば硬さが旨みに変わると知って、勉強しに行ったんです。それから、学んだ熟成の方法を試してみたら、ものすごく美味しくて!本当に美味しくてびっくり!友達にも配ってみたら、「すごく美味しい!次も欲しい!」って大人気だったんです。
ーそんなに美味しいんですね!
そこから、高くても健康で体に良い肉が欲しいという方に、口コミで広がったんです。年に3頭くらいお乳の出なくなった牛をもらって熟成をかけて、バーベキューイベントで食べる。一生懸命やってる酪農家が現行のシステムじゃどうにもできなかったことを、少しでも解決できればという気持ちで始めたことが、安心して食べられる健康的な肉が手に入るっていう、消費者にとっても嬉しいことに繋がったんですよ。ただし、それで利益を優先してしまうと、今度はまだお乳が出る牛まで無理に殺さなきゃいけなくなっちゃう。そうではなくて、本来は処分せざるを得なかった牛を、頭を使って工夫して食べることができる、狭い範囲のお客様だけに販売しています。
ーここでもお客様を選んでいるんですね。
柔らかくないからいらないとか、こんな状態でもらっても料理できないって人たちは食べなくていいし、お知らせもしなくていいと思ってるんです。でも、循環型の農業をやっていくために、健康的に育った牛の最後の食べ方の工夫ぐらい人間がするべきだっていう想いに共感してくれて、毎回購入してくれてるお客様がいます。大儲けしているわけではないけど、おかげさまで私たちが食べていけるくらいの売り上げにはなっているんですよ。
ーSDGsのようなことをずっとやっていらっしゃったんですね。
そうですね。SDGsなんて言われてみても、今更?っていう感じ。歪みがあることはやりたくないだけ。誰か1人だけ泣いたり、誰か1人だけ得をしたりとか、そういうことじゃなくて、みんながそこそこ幸せで、そこそこ経済が回って、そこそこ食べていけるっていう、そういう小さなコミュニティが日本にはいくつかあるんです。大きな団体を作りたいんじゃなくて、小さくて自立したそこそこのグループがいっぱいできれば良いなと思います。やっぱり適正規模を守って、その中で経済が循環していけるようにしないと。
【生産者と消費者を流通のプロが繋ぐ。りんねしゃの考えるこれから。】
ーそれでは、りんねしゃが今後チャレンジしたいことを教えてください。
新しいことっていうよりは、いかにちゃんと続けていけるか。新しく始めたり、アクションを起こすって結構簡単なんですよ。だけど、それを続けるのは非常にパワーが要ること。「継続は力なり」です。
特に、食べるものや農業なんて、2〜3代先を考えないと。魚だってそうじゃないですか?今、1本釣りがブームだからといって「環境のことを考えた1本釣りのマグロですよ〜」って販売しててもだめ。それをずっと食べ続けてもらえるように工夫しないと。だから私は最初から、すっごい売りますよ!とか、頑張って宣伝しますよ!って調子の良いことは言わない。やれるだけのことは精いっぱいやって、常にどうしたらいいか考え続けますので、それでもよかったらお付き合いくださいというスタンスです。
ー続けていくことが何より大切なんですね。では、最後にツナつなの読者や水産業に関わる方に、メッセージなどはありますか?
私は水産業に関しては素人なんですけど、未来が明るくなるような流通を、第一次産業みんなでしていこう!って伝えたいです。農業も林業も漁業も、みんな繋がってるから。海を豊かにするには、まず山を守らないといけない。昔の日本の水田風景は、実はすごい循環の中で守られてたということに、日本人はそろそろ気付いた方が良いです。水産業に限らず、農業、林業にしても、循環がうまくいってた頃を知ってる人が7〜80代になっていて、これからどんどん技術を教えてもらえなくなっちゃうんですよ。せめて私たち50代くらいの世代が、色々なことを学んで、次の世代に渡していかないといけないなと思います。
ー繋いでいくことが必要ですよね。
若い人で漁師になりたい!って方が結構いると聞くので、これから携わっていく人たちのためにも、何か垣根なくコミュニケーションをとれるような機会を私が作れたらなと思います。たとえば、うちでマグロを買ってくださってるお客様を連れて、市場に見学に行くとか。
ー水産業に携わりたい方も多いようですね。農業はどうでしょうか?
最近は、新規就農したい方も増えてるみたいです。都内で農業セミナーをやると、1回で400人くらい集まるんですよ。農業をやりたい子はいる、畑もある、移住も厭わない。でも、そこでできた野菜を流通する術がJAしかない。結局、続けていくには流通のポジションって大事なんです。なりたい!っていう人と、食べたい!っていう人のマッチングが、今は全然うまくいってないんですよね。そのせいで結局諦めてしまう。彼らが精いっぱい作った農産物を、正しい値段で正しい形で食べる人に渡していく必要がありますね。
ー流通は消費者と生産者の橋渡しとして大事な役割なんですね。
最近は、オンラインで生産者と消費者が直に繋がったりしてるけど、だんだん歪みも出てきてるんですよ。物を作る+物を売るって、生産者への負担が大きい。みんな田んぼや畑をやるだけで必死です。それを消費者がポチっとして、「日にち通りに届かないんですけど〜土がついてるんですけど〜」っていうクレームを言って。生産者が疲弊しちゃうのも無理ないですよね。ただ消費者も、今まで普通にスーパーで買ってたから、土のない綺麗なものが届くのは当たり前と思ってて、悪気がないんです。そういうところに対して、流通というポジションの人が入って、こういう野菜ですけどいいですか?と伝えていくことが必要だと思います。そのプロが今は圧倒的に少ないから、もっと増やしていけたら良いですよね。やりたい!と意欲のある人が田んぼや畑をやって、できたものをみんなで集めて、流通のプロがきちんと売るっていうのが、これからの一次産業の理想だと思っています。
必要な分だけ調達し、時には工夫をしながら自然の恵み全てを大切にいただく。大島さんのお話は、脇口の想いと重なる部分も多かったように思います。その上で、消費者と生産者がもっとコミュニケーションをとること。生産者からの発信や、うまく想いを繋いでくれる流通という立場の重要さを知ることができました。
適正規模の中でみんなが少しずつ努力し、少しずつ利益を得て、少しずつ発展していく。小さなコミュニティの中で循環し続ける。循環、まさに「輪廻」の尊さを、改めて感じられた貴重な時間となりました。
大島さん、ありがとうございました。
取材:横谷真一
文:ツナマネ
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