- 2022.5.10
読み物
【すべてが愛でツナがっている!?】那智勝浦のマグロ屋が目指す「100年後もマグロが食べられる社会」
みなさん、こんにちは!ツナつなライターのさや丸です。
今回は和歌山県那智勝浦町にあるマグロ屋さんの「鮪愛」をみなさんにご紹介したいと思います。
マ、マグロに愛って一体どういうことでしょう…
マグロや釣りへの愛なのでしょうか…
気になります!
【生まれ育った那智勝浦町で育まれた「鮪愛」】
鮪愛とは「100年後もマグロの存在する未来を作ること」。
ヤマサ脇口水産四代目社長、脇口光太郎氏の那智勝浦町への想いが込められたことばです。
幼少期、脇口氏の遊び場はいつも熊野の自然の中にありました。海や川、山で遊んだことは楽しい記憶として今でも鮮明に残っているそうです。
今から45年ほど前の勝浦は漁師町としての活気があり、漁師・仲買人・料理屋全ての景気が良かったといいます。
この頃のマグロの仲買人は、市場帽*・手かき*・長靴の3つがあれば仕事ができていたんだそう。
*市場帽:競りで入札をする際に必要な帽子。勝浦漁港では帽子で色分けされており、入札権のある者は緑の帽子を着用している。
*手かき:漁具。マグロの身質をチェックしたり、運搬するときに使う手鉤。木製の棒の先に鉤爪のような金属がついている。
しかしその15年後、脇口氏が事業に関わる頃にはすっかり時代も変わっていました。
その頃の勝浦はマグロの漁獲高が減り、脇口氏の子ども時代には盛況だった漁業が衰退していく一方でした。子供には漁業を継がせたくないと考える漁業者も増え、町の人口もどんどん減っていったのです。
時は、大量生産大量廃棄の時代。乱獲に伴い、マグロの水揚げ量は全国的に激減。勝浦漁港も例外ではありませんでした。
勝浦に広がる自然が遊び場だった脇口氏には、「地球はもともと持続可能なしくみで成り立っている」という考えがありました。
人間が自然の繁殖のペース以上に獲りすぎるのをやめれば、自然は自分で復活する。
この考えのもと脇口氏は、マグロを食べ続けられる未来をつくることを決意。
「おいしさ、健康、地球貢献」をスローガンに掲げ、マグロの調達方針を打ち出して事業を展開し始めていったのです。
【鮪愛ができるまで】
脇口氏の想いの根幹にあるのは、マグロに対する感謝。
「マグロがいてくれるからこそ、お金が稼げる。マグロがいてくれるからこそ、ごはんが食べられる。マグロがいるからこそ、生きてゆける。」
このことばが、とても印象的でした。
先代から脇口水産を引き継いだ際(当時は脇口商店)、脇口氏は改めてそのことを実感したのだそうです。
彼曰く、「マグロを大事にするには、その周りのことも考える必要がある」とのこと。
そして、マグロ単体だけでなく、以下の3つも大切にしたいと思ったそうです。
・マグロを育んでくれる自然
・命がけで漁をしてくれている漁師の生活
・昔の活気があった漁師町をマグロで取り戻すこと
確かに、マグロが存在する未来のためにはどの項目もなくてはならないものですね!
自然の中で遊ぶのが楽しかったからこそ、綺麗な自然を残したい。
活気があった勝浦が好きだったからこそ、取り戻したい。
地元への想いが「鮪愛」になっていったのですね。
昨今、言われている「サスティナブル」や「SDGs」にも繋がる想いで、SDGsに興味のある私は共感の連続でお話を聞いていました。
【「鮪愛」そのキーワードには漁法があった!?】
みなさんもニュースで見たことがあるかもしれませんが、マグロの漁獲高は年々減っており、中には絶滅危惧種に指定されているマグロもいます。
「100年後もマグロの存在する世界をつくる」
マグロ資源を残していく上で、重要なのがその漁法です。
マグロを漁獲する漁法として、代表的なものが2つあります。
巻網漁法と延縄漁法です。
【巻網漁法】
まずご紹介するのは、市場の9割を占めている巻網漁法。
大きな網にマグロの群れを追い込み、丸ごとすくってしまう漁法です。
このマグロの群れを囲いこむ巻網漁法はたくさんのマグロが獲れるのですが、問題点が3つあります。
①赤ちゃんのマグロも獲ってしまう
巻網漁法は、群れにいる全てのマグロを獲ってしまう漁法です。これでは、これから大きくなる予定のマグロの赤ちゃんまで獲ってしまうことになり、マグロ資源の減少や乱獲につながるといわれています。
②マグロの鮮度が保てない
マグロは、適正に処理をしないと「焼け」という現象が起こります。焼けとは、捕獲時にマグロが暴れ回ることにより、体温が急上昇して(中には60度にも上がるマグロもいるそうです!)、身が焼けることで鮮度が落ちてしまうこと。
鮮度が落ちたマグロは身が茶色くくすんでしまい、お刺身などには使えません。そうなると魚価が下がり、漁師さんの収入が下がってしまい、もっと魚を獲らなければいけなくなるという悪循環に繋がってしまいます。
③捨ててしまわれるマグロも…
網の下のあたりにいるマグロは、上に重なったマグロの重みでつぶされてしまいます。つぶされたマグロは鮮度も落ち、売りものにならずに捨てられてしまうことも。本当にもったいないですよね。
【延縄漁法】
そして、もうひとつの漁法が延縄漁法です。
「非効率」と言われる漁法ですが、釣り針の大きさや餌にする魚を調整することで、成長した魚だけを釣り上げる漁法といわれています。
延縄漁法は、1本のロープに餌のついた針に繫がるロープが何本もぶら下がっています。その間隔はおよそ50メートル。100メートルという広範囲の仕掛けを使っても餌が2つしかない=最大でも2匹しかマグロが獲れない効率の悪さ。しかし、最初にお伝えした通り、釣り針の大きさや餌にする魚を調整することで成長した魚だけを釣り上げることのできる「マグロに優しい漁法」なんです。
【那智勝浦漁港で水揚げされたマグロはおいしい!?】
那智勝浦で水揚げされたマグロを食べた方は、「もちもちしていておいしい!」「これまで食べてきたマグロと違う!」と言う方が多いそう。
それもそのはず。脇口水産がマグロを調達する那智勝浦漁港は、延縄漁法で獲られた鮮度の良い生マグロしか並ばない世界的に見ても珍しい漁港で、延縄漁法でマグロを漁獲した船しか入船できないんです。
それに加えて秘密がもうひとつ。
延縄漁法は「非効率」だからこそ、マグロ生きているうちに、漁師さんが一本一本神経締めを行うことができます。
この処理を一般的に「活き締め」と呼びます。
↑頭に刺さる黒い管が活き締めの証拠
この処理をすることによってマグロが暴れずに処理できるので、「焼け」の現象が起こりません。もちもちの身質が保たれれるので、おいしさが格段に違うんです!
以上が、脇口水産が調達方針として採用している延縄漁法と処理の仕方です。脇口水産ではマグロの資源を守るために「漁法」と「処理」にこだわったマグロのみを取り扱っているんですね!
【つくりたい未来】
幼少期、自然の中で育った脇口氏は、「私達人間は必要な分だけを自然界から分けて頂いているという気持ちを忘れてはいけない。少しでも自然に恩返し出来る様になることが我々の使命だ。」と言います。
この想いこそ、マグロを次世代に残すマグロへ対する愛「鮪愛」なのではないかなと思いました。
(文章:ツナつなライター さや丸)
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