- 2021.12.24
勝浦のええとこ、ええ人
01_第78海王丸 船長 西田 幸ニ
「昔はどこでも釣れたんだけどね‥。マグロの数も減ったし、魚体も小さくなったね。カジキ類も昔はシロカワカジキで400キロ、メカジキでも200キロクラスが普通だったけどね‥。今は小さくなった。クロマグロも減ったねー」
そう嘆くのは大分のマグロ漁船、第78海王丸 船長 西田幸二さん。御年73歳。
船長になったのが28歳とのことなので、45年ほどマグロ漁船の船長を続けている超ベテランだ。
「温暖化と言われているけど、漁に出ているとその影響がわかりやすくて、どの魚も北上しているんだよ。
近海のタイやブリ、アジ。沖縄にいるはずの熱帯魚が駿河湾で揚がったり、本マグロも今は北緯40度線にいる。
ロシアでもマグロが跳ねてるって聞く。マグロの北上は北海道で止まればいいけど、もっと北に行ってそう。北海道北端の宗谷あたりまで行ってるんじゃないかな。
マグロ漁だけでなく、カツオの漁師も魚の北上には困っていると思うよ」
地球温暖化と言われて久しいが、日常生活で影響を実感することは多くはない。しかし、常に大自然と対峙している漁師は、温暖化の影響を肌で感じているようだ。
「昔とはいろいろ変わったね。昔は船も多くないので一匹狼的に漁に出ていたけど、今はダメだね。船が多いので、電話で問い合わせたり情報を集めるのも大切。
あと、昔の漁は早いもの勝ちだけど、今は漁獲枠があるからそこも計算しないといけない。魚がたくさん揚がっている時に、もう自分の船の漁獲枠があまり残ってないので我慢しないといけない時もあるんだよね。
最近の漁船はインドネシア人が乗っていることが多い。昔は日本人でも一攫千金と言われたけど、今は無理。でも、インドネシア人にとっては夢がある世界。うちの船に乗っている子も、インドネシアに家を2つぐらい建てているんじゃないかな」
マグロ漁を取り巻くいろんな変化もあるが、変わらないのは延縄漁へのこだわり。最近は脇口水産との共同プロジェクトで、海外の漁師に延縄漁を教える機会もあるという。
「イランの漁師に教えたんだ、マグロの扱い方が悪かったからね。生きたまま漁船の中に放り込むので、マグロがバタバタしちゃう。缶詰にするからそれでもいいっていう考えなんだろうけど、活け締めにしてすぐ冷やすことを教えた。釣り上げた後の処理を、いかに早く短くするかが大切だからね。
身が焼けちゃうので、海の中でマグロを暴れさせてもダメ。エラを抜いたり、処理の仕方も大事だね。でも、漁の技術はイラン人も上手だったよ。釣り上げた後の扱い方に慣れたら大丈夫だろうね」
45年以上、各地で漁をしてきた西田船長にとっても、那智勝浦の海は特別なようだ。
「千葉の房総半島あたりもいい漁場だけど、那智勝浦の海はいいよね。特に冬は水温も冷たくていい。黒潮がもたらす恵みだね。本マグロ、ビンチョウ、メバチ、キハダ‥。
ちなみに私のおすすめの食べ方は、焼肉のタレに30分ぐらい漬けて、ご飯にかける。ユッケ丼みたいに、黄身を入れて食べると美味しい。漬けにするならビンチョウがいいかな。焼肉のたれに漬けたマグロを、フライにするのもいいですよ」
船上でも陸の上でも、毎日刺身を食べるという船長。
「やっぱりマグロは好き。美味しい。暴れて身が焼けて肉質が落ちる網で採れたマグロより、延縄で釣り上げたマグロがいい。死んだマグロと活け締めしたマグロでも、全然味が違う。やっぱり生マグロは最高ですよ」
家の中よりも船の上が好きな船長。
45年間マグロ漁船に乗り続けても、マグロへの愛は色褪せないどころか、ますます高まっているようだ。
「延縄漁の技術をもっと広めていきたいね」
そう語る船長は明日出航する漁の準備があるからと笑顔で去っていった。
こだわり続けたマグロの延縄技術を絶やさず、世界各地に広げてほしい。
それは、マグロ漁が未来永劫、持続可能な状態で続くためでもあるのだ。
そう願う筆者に、取材場所のマグロ料理店から声がかかった。
「船長から差し入れいただきましたので、お帰りの際にはお声かけください」
粋な船長だ。
(取材、文章 副編集長 横谷真一)
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